EIP-8079 L1とL2の協調とセキュリティ基準の再構築

著者：Zhixiong Pan
出典：chainfeeds

過去2年間、イーサリアムのスケーリングの主力は様々なLayer2 Rollup、例えばArbitrum、Optimism、Baseなどでした。これらのL2チェーンはパフォーマンスを向上させた一方で、資産やユーザー体験の分断をもたらしました。ユーザーは頻繁にクロスチェーンを行い、資産が異なるネットワークに分散し、体験が良くなく、技術やセキュリティ標準も統一しにくい状況です。

こうしたユーザー体験の断片化問題を解決するため、イーサリアムコミュニティは最近EIL（Ethereum Interoperability Layer、イーサリアム相互運用レイヤー）を提案しました。これにより複数のL2ネットワークにまたがる統一されたユーザー体験を実現し、ユーザーが複数の独立したネットワークではなく、1つのチェーンを利用していると感じられるようになります。

同時に、イーサリアムの研究者たちはプロトコルレイヤーの標準化とセキュリティ問題にも注目し始め、今回紹介するEIP-8079（Native Rollup）が誕生しました。

Native Rollupとは何か？

簡単に言えば、現在のRollupは自分のチェーン上でトランザクションを処理した後、定期的にイーサリアムメインチェーン（L1）へ状態データや証明を提出し、実行結果の真正性を保証しています。しかし、各Rollupは独自の状態マシン、証明システム、検証ロジックを持っており、複雑性やセキュリティリスクを招いています。

EIP-8079が提案するNative Rollupの核心は、イーサリアムメインチェーンにEXECUTEという新たなプリコンパイルドコントラクトを追加し、Rollupが自チェーンのブロックを直接メインチェーンに提出し、メインチェーン側で再実行してブロックの有効性を検証できるようにすることです。

これにより、Rollupはもはや複雑な状態マシンや証明システムを自前で実装する必要がなくなり、イーサリアム自身のコア実行エンジンをそのまま利用できるため、複雑性やセキュリティリスクが大幅に低減されます。この設計が「Native Rollup」、すなわち真の意味でのネイティブRollupです。

誰がこの提案を推進しているのか？

EIP-8079の著者はL2BEATのLuca Donnoとイーサリアム財団の研究員Justin Drakeです。実は2025年初めにはこのアイデアがコミュニティフォーラムで提案・議論されており、最近正式にEIPドラフトとなり、技術的な詳細の議論段階に入りました。

技術的に、Native Rollupは何をするのか？

Native Rollupで最も重要な技術的変化は、EXECUTEという特別なプリコンパイルドコントラクトを追加することです。これによりRollupはブロックをL1に提出後、イーサリアムメインチェーンのEVMエンジンで直接検証できるようになります。

具体的なプロセスは以下の通りです：

Rollupが提出するデータには、現在のL2状態、検証対象のブロックデータ、L1からL2へのアンカーデータなどが含まれます。

メインチェーンがEXECUTEを実行する際：

• ブロックの有効性をチェック（例：特殊なBlob取引タイプは禁止）
• アンカーデータをL2状態の特定のシステムアドレスに注入
• イーサリアムクライアント内部の状態遷移関数を呼び出し、提出されたL2ブロックを完全にリプレイ

リプレイが成功すればブロックは有効、失敗すればブロックは拒否されます。

この方式により、L2は複雑な検証システムを独自に構築する必要がなくなり、イーサリアムメインチェーンの成熟した実行エンジンをそのまま再利用できます。

なぜこのような変更を行うのか？

現在、各L2は独自に検証ロジックを実装しており、これが高いメンテナンスコストやセキュリティリスクにつながっています。メインチェーンがアップデートされるたびにL2も追従アップデートが必要で、さもなければセキュリティリスクや互換性問題が発生しやすくなります。

Native Rollupによって検証ロジックを標準化すれば、L2は複雑なEVMのコピーや独自検証システム全体を個別に維持する必要がなくなります。セキュリティモデルは「イーサリアムメインチェーンが安全かどうか」という1点に単純化されます。

これにより、今後セキュリティ委員会やマルチシグなどの一時的なセキュリティ対策も段階的に廃止でき、より速く真の分散化・安全なスケーリングソリューションが実現します。

これによりL2にどのような制約が生じるか？

Native Rollupになるための重要な前提条件は、実行レイヤーがイーサリアムメインチェーンのEVMと高度に等価であることです。つまり、L2は独自の実行環境でカスタムopcodeやプリコンパイルドコントラクト、特殊なトランザクションタイプなどを自由に追加できません。そうしないとメインチェーンのEXECUTEが正しくブロックをリプレイできなくなります。

ただし、だからと言ってL2が完全に差別化できなくなる訳ではありません。実際、L2は経済モデル、ガバナンス方式、トランザクションの並び替えメカニズムなどの面で独自性を維持できますが、実行レイヤー自体はイーサリアムメインチェーンの規格に厳密に従う必要があります。

Native Rollupはイーサリアムエコシステムに何をもたらすか？

L2プロジェクト側にとっては、セキュリティ確保と運用コストが大幅に低減され、ガバナンスや運営コストも下がります。

開発者にとっては、コントラクトをデプロイする際、メインチェーンと同じ確定的な挙動が得られ、L2ごとの特別な適合を行う必要がなくなります。

ユーザーにとっては、資産の安全性が大幅に向上し、「本物のイーサリアムメインチェーン」に近い体験となり、長期的にはエコシステムの統一性と利便性が大幅に改善されます。

まとめ

イーサリアムはEIP-8079のNative Rollup提案により、プロトコルレイヤーでL2に標準化された実行検証方式を提供し、L2が本当の意味でメインチェーンのセキュリティや成熟したインフラを再利用できるようにします。同時に、EILなど他のソリューションと組み合わせることで、現在のL2におけるユーザー体験や資産流動性の分断という課題も徐々に解消しつつあります。

今後、より統一された、セキュリティの高いイーサリアムエコシステムが実現するかもしれません。